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今口開く

今口開く

2021年2月22日

唐突ですが、「その手は桑名の焼き蛤(ハマグリ)〜」って言う言葉をご存知ですか? 

 

私はその三重県桑名市の出身なのですが、言葉そのものは知っていても、なんだかピンと来ないものがありました。「え? 桑名ってこの桑名なの?」って感じです。「恐れ入谷の鬼子母神」「なんだ神田の大明神」とかと同じく古典的な地口(注1)ですが、「入谷の鬼子母神」や「神田の大明神」は東京に実際にあるものなので理解しやすいのに比べ、「焼き蛤」なんて桑名で生まれ育ったにも関わらず見たことなかったもんですから。でも、桑名に焼き蛤はちゃんとあったんです。殿上人に属する方々が食するものであって私のような一般庶民がそのご尊顔を拝し奉ることのできないものだっただけの話で。

 

中学生の頃、桑名の城跡の公園(注2)の近くに立派な御門をもつ料亭がありまして、その付近で友人たちと屯(たむろ)していたら、竹箒を持ったジーサマが飛び出て来て「シッシッ」っと追い払われたことがあるんですが、海南病院の脳神経外科部長を拝命していた時に院長先生のお供でこの御門の料亭にて焼き蛤さまに初めて御拝謁の栄を賜りました。それはそれはもー美味で感動させて頂きましたが、院長先生に対する下へ置かないおもてなしと、私ども家来衆に対する斜め上な接し様の違いにも心から感動させていただきました。まあ、それはそれで良い社会勉強でした(注3)けどね。自分は患者さんの社会的位置付けによって接遇に差を付けるようなことはしないぞと。

 

先日、そんな蛤さまに久しぶりにお目にかかりました。桑名の地ハマ…すなわち桑名産の蛤で、もちろん頂きものです。

私は昔から、頂き物を頂きますと「モッタイナイお化け」に取り憑かれてしまい、食べたら無くなっちゃうのでモッタイナイ…と、食べることに踏み切れず、とどのつまりは腐らせてしまうという、実にモッタイナイことをしてしまうのですが、貝となりますと保存が効きませんからそうもいきませんから、素直にその日のうち頂くことにしました。どう食べたものかと考えたのですが、家に網焼きの道具がある訳もなく、鍋にすることにしました。実に立派な蛤で、ここまで大きく育つのに何年かかるんだろうと思いながら、パックリと口を開けた蛤さまを堪能させていただきました。

いやー美味なり美味なり。飲み込むのがモッタイナイほどの美味でした。

 

蛤と言えば、相方の貝殻以外とはピッタリ合わない性質から、貝合わせと言ってトランプの神経衰弱みたいにして遊んだんだそうで、これはと思って合わせた貝殻が合わないことを「グリハマ〜」と呼んだんですって。で、これが動詞化したのが、不良少年の「グレる」って言葉だそうですよ。ホントですかねぇ。

 

♪ 幾年月  言葉少なに 埋もれいて  今口開く 蛤旨し

(大伴ヤキモチ)

 

(注1)シャレのような言葉遊びのことです。

(注2)九華公園と言います。桜の名所です。

(注3)今はイタリアンレストランになってしまったそうです。若干のザマミロ感は禁じ得ません。

 

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