このところ急に朝晩が秋らしくなって来ましたね。
スポーツの秋!ということで、先日久しぶりに弓道の練習に行ってきました。で、これまた久しぶりに的中が出てとても嬉しかったです。的に当たったのはかれこれ2年ぶりくらいかと。
どうしてそんなに久しぶりなのかと言いますと、「早気(はやけ)」と言う恐ろしい病に取り憑かれていたためです。
「早気」というのは、弓を引き絞って的を狙った形になった瞬間に矢を放ってしまう癖のことです。「弓を引き絞って的を狙った形」のことを「会(かい)」と言うのですが、傍目にはただ静止しているだけに見えていても、実は関節の位置を確認したり力の向きを調整したり色々してるんですね。数学の問題を考えてる時って、じっと止まってて居眠りしてるように見えても頭の中はフル回転してますでしょ。そんな感じで、この形に入った瞬間に矢を放つと言うことは、数学の試験で席に着いた瞬間にパッと立ち上がって白紙で答案用紙を提出するみたいなもので、どうにもマズいんですね。
記憶というのは陳述記憶と手続き記憶と言うのに分けられるんですが、陳述記憶と言うのが一般的な意味での「記憶」で、海馬が関与します。一方、手続き記憶というのはいわゆる「体が覚えてる」というやつで小脳が働きます(注1)。
陳述記憶の場合は、長期増強効果(LTP)と言って何度も同じ刺激が入るとだんだん記憶が強固になっていきます。何度も繰り返し勉強する覚えられるというお話ですね。一方、手続き記憶の場合は、繰り返し刺激すると長期抑圧効果(LTD)によって無駄な動きを省くことでスムーズに動くようになるとされています。
これを踏まえると「早気」は長期抑圧効果がかかって、「会」での体の動きを「無駄」と判断して省いちゃった状態と想定されます。ですから、これを直そうとすることは、小脳くんからすれば習得したものをわざわざ「下手にやれ」と言われてるようなもので、字が上手な人に「下手に書け」と言っても難しいようになかなか直らないものなんですね。
そこで、しばらく的に向かわず「巻藁(まきわら)」と言う仮の的(注2)を用いて練習していたのですが、足掛け2年ほどでようやく「下手に」なって「会」の形を保つことができるようになって来ました。で、久しぶりに的に向かって矢を放ってみましたら、2本目で「パン」といい音がして的中してくれました。長い長いトンネルを抜け出した瞬間でした。
もちろん下手になったことで失ったものも大きいんですが、それはこれからですね。
「千里の道も一歩から」と言いますが、「千里戻って一歩から」ですね。「振り出しに戻る」のマスに止まった双六のような話ですが、こういう時「まーまたやるしかないやん」と思えるヘタレでよかったです。
ま、のんびりやりましょ(^^)
♪引けど引けど 中(あた)りは遠し 弓の術 行く果て千里 王の道無し
注1)2024.5.19付「五月雨の空に」の項もご参照ください。
注2)2024.721付「アマガエル」の項もご参照ください。