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身を捨てて

身を捨てて

2023年12月17日

先日三重県の四日市に行ってきました。私の趣味の1つである短歌の会に参加するためです。

短歌は私が高校生の頃から細々と続けてきた趣味の1つなのですが、1年ほど前にある歌人会の末席に加えて頂きましたので時々歌会に参加させて頂いています。普段は名古屋で開催されるのですが、今回は三重県四日市市での開催でした。

四日市は私が医師人生をスタートさせた街です。

 

思い起こせば30年前、研修医としての修行も終わりに近づいたある冬の朝、私の机の上に「脳神経外科 小林」と言う名札がポンと置いてありまして、「え?」と思ったその時が脳外科医人生の始まりでした。

とにかく忙しく、毎日毎晩緊急で呼ばれ、たまに24時に帰れると「今日は6時間も寝られる!ラッキー!!」と思うような日々でした。

まあでも、おかげさまでおおよそどんな理不尽な状態に置かれても、いったん飲み込んで腹に収めてから状況を分析し、最善手を考えると言う「胆力」のようなものは身に付いた気がします。怒ろうが拗ねようが何も変わりませんし、そんな無駄なことをしてる間に解決策を練った方が5分でも多く眠れますからね。

 

さて、肝心の短歌の会はと言うと

 

♪秋深み 鳴かぬ紅葉は 身を染めて 誰をか恋うる 風に揺れつつ

 

と言う短歌を披露したんですが、「古今調で古臭い」「回りくどい」「正岡子規を源流とする近代短歌の世界(注1)では評価に値しない」などなどボロクソ言われて落ち込んでしまいました。が、良いと思って下さった方も若干いらっしゃったようで、秀歌に選んで頂きました。

子供みたいで恥ずかしいですが、やっぱり評価して貰えば嬉しいもんですね。

 

四日市駅前の店はほとんどが入れ替わっていましたが、マクドナルドと吉野家は昔のままで、巨大資本の強さを感じると共に、逆に言えば世代を超えて愛される味であるが故に巨大資本となるのだなと感心してしまいました。

帰りにマクドナルドに寄ったのですが、ポテトが揚がったサインの「ピー」と言う電子音が聞こえた刹那、反射的ににベルトのポケベル(注2)をまさぐった左手にPTSD(注3)を感じました。

人生を逆走してもう一回選べるとしたら…あの苦労はもう選べないなぁ…と思ってしまうヘタレの私は、やっぱり四日市に大きく育ててもらったんでしょうね。

苦労なんてなかなか自分からは買えませんもんねぇ

 

♪ 身を捨てて 瀬に浮かびけり 時の川 流れ流され 若き日は過ぐ

(大伴ヤキモチ)

 

注1)正岡子規さんは著書「歌よみに与ふる書」で古今集のことを痛烈に批判していますが、その真意は古今集批判にあるのではなく、芸術に持ち込まれた権威主義・形式主義の否定であって、その象徴として古今集を引き合いに出したということだと思うんですよね。現代の短歌における子規崇拝を当の本人はどう思われるかなと…思わんでもないです。

注2)その当時は携帯電話なんてものはなく、呼び出しはもっぱらポケベルでした。

注3)「心的外傷後ストレス障害」です。強烈なトラウマ体験のあと、後々になってもストレス性の症状が出てしまう状態のことです。

 

四日市は近鉄が圧倒的に便利ですね。

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