少し前の話になりますが、業者さんから立派なアンズをたくさん頂きました。ありがとうございました。
アンズは漢字で書けば「杏」あるいは「杏子」ですね。「杏」と言う文字はシンプルでとても可愛らしい字体ですし、「アン」が英語圏における女性の名(AnnあるいはAnne)として使われることからか、この文字を用いたお名前の女性は著名人も含めてたくさんいらっしゃいますよね。
「アン」は、フランス語では「アンヌ」、ドイツ語的では「アンネ」、イタリア語では「アンナ」となりますが、調べてみると語源は古代ヘブライ語で「恩恵」と言う意味の「カンナハ(Channah)」なんですって。「アン」と言えば赤毛のおてんば娘を想像するのは私だけではないと思いますし、私の世代なら「アンヌ」と言えばウルトラセブンを抜きにしては語れませんし、人類の黒歴史に少しでも興味があれば「アンネ」と言う名を知らない人はいないでしょう。名は体を表すと言いますが、「恩恵」と言う語源に恥じないお名前ですよね。
アンズの「杏」も「カンナハ」に負けないほどの深い歴史を持つ文字なんです。
杏仁豆腐と言う中華料理のデザートがありますが、この「杏仁」と言うのはアンズの種のことです。アンズの種は咳止めの生薬で、現代においてもキョウニンスイ(杏仁水)と言うお薬として使われています。このお薬を甘く飲みやすくしたのが杏仁豆腐の始まりなんですよ。今でも子供が飲みやすい様にお薬を甘くシロップにしますでしょ。それがお菓子になっていったってことですね。今も昔も子供に薬を飲ませるのは大変だったんですね。
さて、その咳止めの妙薬でもあるアンズですが、昔々ある名医が、貧しい患者さんからはお金を取らず、その苗を植えてもらうことで治療費の代わりにしたところ、お屋敷の裏に立派なアンズ林ができたと言う伝説があるそうなんです。そんなことから「杏林」は医師の美称(注1)とされています。
医療的なつながりで言えば、「扁桃腺」の「扁桃」はアーモンドのことで、アーモンドもまたアンズの仲間です。桃やさくらんぼもアンズの仲間なんですが、桃やさくらんぼはその果肉を食用にするのに対し、アーモンドはその果肉ではなく種を食用にすると言う違いがありますけどね(注2)。
さて、いただいたアンズですが。
さんざんウンチクたれといてお恥ずかしいのですが、それそのものを口にするのは初めてでした。桃ほど甘くはなく、さくらんぼほど強い味わいでもなく、上品でほんのりした甘酸っぱさがとても美味しかったです。何より鮮やかなオレンジ色が実に美しかったです。
こんな花も実もある人生に…したかったですねぇ。
♪ 忍ぶれど 花咲かずして 我が歩み 杏(あんず)良きかな 紅く実の熟(う)る
(大伴ヤキモチ)
注1)太った女性を「グラマー」と言ったり、協調性がないことを「個性的」と言ったりしますでしょ。そんな感じです。
注2)2021.7.21付「父の心を」の項もご参照ください。